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渋谷で弁護士をしている上野訓弘です。
今回は、前回のhttp://www.rikon-uenolaw.jp/blog/2015/09/post-4-122932.html に続いて
「夫や妻(結婚相手)が精神病(うつ病、統合失調症、アルツハイマー型等の各種の認知症、薬物中毒、アルコール中毒等)になってしまった場合に、夫や妻(結婚相手)の精神の病気を理由に離婚できるのか?」について記載します。
前回記載のように、「強度の精神病で、回復の見込みがない場合」であるとしても、「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるとき」は離婚が認められません。
では、具体的にどのような場合に認めら、どのような場合には認められないのでしょうか?
今回は、これに関し、離婚が認められるために原則として必要となる2つの条件(2つとも必要です)について記載いたします。
1 ①精神病にかかった夫や妻(結婚相手)の治療、介護のために、ある程度の期間誠意を尽くして努力していたことが必要です
治療、介護のためにある程度の期間誠意を尽くしてきたことは、それでも状況が改善しなかったという意味で「回復の見込みがない」という判断にも関わります。
しかし、それだけではありません。
というのも、そもそも、この「一切の事情を考慮」して離婚を認めないという規定に関しては、本来、一方が病気になった場合には相手を助ける義務を夫婦それぞれが互いに負っている以上、精神病になった相手に対して介護等を十分にせず、相手を放り出すような勝手な離婚であれば認めないという発想があると考えられます。
これは、見方を変えれば、誠意をもって介護、治療を続けてきたために心身共に疲弊しきってしまった夫や妻が共倒れになってしまうことを防ぐという発想でもあります。
こうした発想があるため、身勝手な離婚ではないし、また疲弊により共倒れのリスクが生じているから離婚する必要が高いことを説得的に主著出来るように、介護、治療のためにある程度の期間、誠意を尽くして努力してきたことが必要となるのです。
2 ②離婚後に、相手(元夫や元妻)が治療や生活に困らないような具体的な対策(計画)の用意が必要です
とはいえ、これまで介護、治療を続けていても、今後離婚した後、相手(元夫や元妻)が困窮するのでは、裁判所は、離婚を認めません。
実際、裁判所は、「諸般の事情を考慮して、病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度において、前途にその方途の見込みのついた上でなければ」離婚は認めないとしています(最高裁判所昭和33年7月25日判決、事件番号:昭和28年(オ)1389号)。
すなわち、今後離婚しても、相手(元夫や元妻)が、治療や生活に困らないような具体的な対策(計画)を用意しておく必要があるのです。
たとえば、(元夫や元妻の資産状況にもよりますが)将来にわたっても、元夫や元妻の治療、生活費について支援する、あるいは、治療、生活費に困らないような財産分与の計画等が必要です。
なお、このような計画が本当に実行されるのか(離婚したとたんに、支援をしなくなる等はないか)は、当然、裁判所は懸念します。
このような裁判所の懸念を払拭するためにも、 精神病にかかった夫や妻(結婚相手)の治療、介護のために、ある程度の期間誠意を尽くして努力することが必要なのです。
ところで、上記のような「元夫や元妻の治療、生活費について支援する、あるいは、治療、生活費に困らないような財産分与の計画」は、経済的な面で難しいという方もいらっしゃると思います。
しかし、その場合でも、生活保護により元妻や元夫が、生活、治療を続けられるようにして、かつ、できる限り病院に面会に行って精神的な擁護も続けることを誠意を持って表明していれば、離婚は認められます。
現に、「離婚後に妻が生活保護を受けられるような措置を講じ、また病院からは生活保護により国家の費用負担で治療を為すこと(医療扶助といいます)が決定された場合には担当病院となることについて内諾を得てておき、かつ、離婚後もできるだけ妻に面会に行き、夫婦の間の子供との面会を妻が希望する場合には会わせることで精神的に擁護し続けることをを誠意を持って表明している場合」に、離婚が認められています(東京高等裁判所昭和58年 1月18日判決、事件番号:昭57年(ネ)235号)。
ただし、精神的な擁護を続けるという点も重要なことは、忘れないでください。
3 精神病に関して「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」があるとされる場合でも、上記のような事情は必要です
前回 http://www.rikon-uenolaw.jp/blog/2015/09/post-4-122932.html お伝えしましたように、強度の精神病で回復の見込みがない場合にあたらなくとも、精神病に関連して「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」があるとされて、離婚は認められることがあります。
そして、精神病に関連して「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」があるとして離婚が認められるためにも、上記のような①精神病にかかった夫や妻(結婚相手)の治療、介護のために、ある程度の期間誠意を尽くして努力していたことと、②離婚後に、相手(元夫や元妻)が治療や生活に困らないような具体的な対策(計画)の用意が必要です。
4 あまりに身勝手すぎる相手に対しては、例外的に②が不要とされる場合があります
ところで、上記のように精神病が原因で離婚が認められるためには、①、②が必要となるのですが、どんな相手(夫、妻)に対しても、常に、要求されるものなのでしょうか?
例外的な場合ですが、そこまではしなくとも離婚が認められる場合(②が不要とされたと考えられます。)もあります。
具体的には、
以前から女性関係の派手だった夫が浮気相手に会いにいく途中で、
自分の過失で事故を起こし、
その結果身体障害になった場合において、
妻はそれでも9か月以上献身的に介護をしていましたが、その間に夫から感謝の言葉はなくかえって非難がましい言動をされ、疲労困憊して実家に帰ってしまった事案で、
裁判所は、「被告の身体障害は、被告の原告に対する一方的背信行為に起因して生じたものであると言うべきであつて、被告において原告に生涯の介護を求めることは身勝手と言わざるを得ず」として、
②が乏しい状態でも離婚を認めた例があります(大阪地方裁判所昭和62年11月16日判決、事件番号:昭60年(タ)262号 ・ 昭62年(ワ)3503号)。
次回は、このシリーズのこれまでのまとめを掲載いたします。