多額の借金があることを理由に、婚姻費用分担額、養育費をゼロにすることは出来るか?
(相手に多額の借金がある場合に、婚姻費用分担額、養育費はゼロにされてしまうのか?)
当ブログにようこそ。
渋谷で弁護士をしている上野訓弘です。
今回は、「多額の借金があることを理由に、婚姻費用分担額、養育費をゼロにすることは出来るか(多額の借金がある場合、ゼロになってしまうのか)?」について記載します。
離婚が問題となったとき夫(妻)に多額の借金がある場合、あるいは離婚後に夫(妻)に多額の借金ができてしまった場合ということがありえます。
こうした場合に、婚姻費用分担額、あるいは養育費をゼロにまでできる(ゼロになってしまう)のでしょうか?
1 多額の借金があることだけではゼロにすることは難しいです
まず、一般的に婚姻費用分担額、養育費をいくらにするのかは、夫と妻それぞれの収入(収入予想)を主たる判断要素として決めます。
収入以外にも、借金(債務)の支払い状況、さらにはその借金の原因等を検討し、総合的に判断されます。
ただし、現在、離婚等の調停、審判においては、「算定表」とよばれる裁判所が作成した表を用いて婚姻費用分担額等を決めています。
この「算定表」は、収入を基礎に婚姻費用分担額、養育費を決めるものですので、収入が主たる判断要素となり、判断に際して借金(債務)の支払い状況等の考慮の比重は、小さいものとなります。
このため、多額の借金があるとしても、ゼロにすること(ゼロになってしまう)までは難しいです。
2 結局は、収入との関係でご自身の生活が困難かどうかで決まります
より具体的に申しますと、まず、確かに、婚姻費用分担や養育費の支払いをした場合、支払いをする者(義務者といいます)の生活が全く出来ないほどであれば、ゼロになり得るのです。
しかしながら、ここでいう生活が出来ないというのは、相当生活が厳しい状況のことをいいます。
というのも、夫婦の間、あるいは子供に対する養育義務とは、自分に余裕のある範囲で援助する(生活扶助義務)ではなく、(分かち合うことで)自分と同程度の生活をさせる(生活保持義務)義務であるとされています。
この義務について、大阪高等裁判所の平成6年4月19日判決は、「いわば一椀の飯も分かち合うという性質のもの」と表現しています。
このように婚姻費用分担、養育費の支払い義務とは、金額がたとえ少額になろうとも、なしうる限り支払うべき義務なのです。
このため、幾分たりとも収入がある場合、多額の借金の返済のあるとしても、その幾分かの収入のうち、多少義務者の生活が厳しくなろうとも努力して捻出すべきものとされやすく、ゼロにまでなることは相当難しいです。
もっとも、多額の借金があることは、その場合に多額の借金に対する返済も必要となるのですから、当然、支払い額を減額する要因にはなります。
また、判断の際、その借金の金額のみならず、その性質(誰からなんのために借りたものか、返済を怠った場合の不利益の程度、返済の猶予が認められる見込み等)も考慮されます。
その上で、収入との関係で、いくらまで支払うことが可能かどうかを検討することになります。
事実、上記、大阪高等裁判所の平成6年4月19日判決(事件番号:平6(ラ)67号)では、夫が支払い義務を負っていた場合で、その夫は失業中で収入は失業保険のみで、家のローン等がほぼ全額残っているという状況で、(一審の神和歌山家庭裁判所はゼロとすることを認めましたが)大阪高等裁判所ではこの状況だけでゼロとすることは認めませんでした。
この大阪高等裁判所の判断は多岐にわたりますが、その中でも失業保険の中から幾分養育費を負担することが出来ないかどうか丁寧に検討する必要があることを示した、すなわち幾分か収入がある場合に、多額の借金があるからといって直ちにゼロにするという判断はしなかったことは今後の参考になる点です(もちろん、収入や借金の状況如何によってはゼロにする可能性はあり得ます。)。
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