浮気した者からの離婚請求は絶対に認められないのか3

当ブログにようこそ。

渋谷で弁護士をしている上野訓弘です。

今回は、

「③離婚により、これまでの結婚相手が、精神的、社会的、経済的に過酷な状況におかれてしまう場合、それでも離婚請求は認められてしまうのか」について記載いたします。

 

※前回までの記事
・浮気した者からの離婚請求は絶対に認められないのか①
・浮気した者からの離婚請求は絶対に認められないのか②

 

経済的に過酷な状況におかれてしまう場合、さすがに離婚は出来ません。

たとえば、大阪高等裁判所の昭和62年11月26日判決(事件番号:昭61(ネ)1834号)では、別居期間が夫婦の同居期間の3倍近い15年を超えており、さらに子供も19歳になっており大学生ではあるけれども寮に入って生活しており独立して生活をするに至っている状況である、つまり最高裁判所が呈示する3つの条件のうちの2つは満たしているとしつつも、妻が経済的に過酷な状況になることを理由に、離婚を認めていません。

 

このように、これまでの結婚相手が離婚により経済的に過酷な状況におかれてしまう場合、離婚は認められません。

(これはあくまで浮気をした者からの離婚が認められるかの話です)

 

 

財産分与や、その後の生活費の仕送り等により、経済的に過酷な状況におかないようにすれば、離婚は認められ得ます。

 

もっとも、離婚により経済的に過酷な状況におかれるかどうかは、財産分与の予定や、離婚後の生活費の仕送り等から総合的に判断されます。

 

このため、これまでの結婚相手の方が離婚後も安定した生活が出来るように財産分与をする計画がある、あるいは仕送り計画等がある場合には、経済的に過酷な状況にならないと判断されます。

 

現に、最高裁判所の平成2年11月8日判決(事件番号:平元(オ)1039号)では、離婚後には居宅を売却し居宅に関係する借金(被担保政権)を返済し、売却手数料を除いた残額のほぼ全額をこれまでの結婚相手に渡すという財産分与計画を用意していた夫からの離婚請求が認められました。

 

 

財産分与の計画があっても、実現性(実行可能性)がなければ離婚は認められません。

 

ここまで読まれた方の中には、このような裁判のあり方では、形ばかりで実際には実行する意思がまるでない財産分与計画、仕送り計画を立てて、それで離婚が認められることがあるかもしれないとお考えの方もいらっしゃると思います。

 

しかしながら、裁判所は、こうした浮気をした方からの離婚請求の場合、財産分与の実現性(実行可能性)についても審査します。

 

たとえば、先の最高裁判所の平成2年11月8日判決は、財産分与について「相応に誠意のある」ものという評価をしていますが、このような評価に至った背景には、財産分与計画の内容もさることながら、別居後も夫が妻に対して相応の生活費の仕送りをこれまで続けていた(誠実に実行してきた実績がある)という事情があったからと考えられます。

 

他方で、先の妻の経済的な苦境を理由に離婚を認めなかった大阪高等裁判所の昭和62年11月26日判決の場合、実は、離婚が成立すれば相応の金銭的配慮はするという主張を夫(離婚を求めた側)はしてはいました。

しかし、別居中の生活費について自らすすんで支払うことなく、妻からの強制執行により支払いをしていた状況であり、(離婚は成立していない状況であるため財産分与を先行すべき義務があるとはいえない状況であるとはいえ)なんら財産の分与をしていない夫の態度から、裁判所は、従前における夫の態度からその実効性には疑問が残るという評価をし、最終的に、このままでは離婚によって妻が経済的に過酷な状況におかれるという認定になりました。

 

このように、実現性(実行可能性)のない財産分与や仕送りの計画では、離婚は認められません。

 

 

経済的には苦境にならないけれど、精神的、社会的に過酷な状況になる場合に離婚が認められるかどうかは不明です。

 

最高裁判所の3つ目の条件は、「「③離婚により、これまでの結婚相手が、精神的、社会的、経済的に過酷な状況におかれないこと」ですから、理論上は、「経済的には苦境にはならないけれど精神的あるいは社会的に過酷な状況になる場合」に離婚が認められない可能性があります。

 

しかしながら、そもそも、これまでの公表されている裁判例の中で、そもそもこのような状況であると認定された例はございません(私の勉強不足でしたら、申し訳ございません)。

 

これまでの例では、精神的に苦境になる場合は、経済的にも苦境になる場合と判断されているのです(例:最高裁判所の平成16年11月18日判決。東京高等裁判所の平成20年5月14日判決)。

 

このように、経済的には苦境にはならないけれど精神的あるいは社会的に過酷な状況であると認定された場合が公表された裁判例の中にございませんので、実際にこのような状況と裁判で認定された場合にどのような判断になるかは不明です。

 

ただし、精神的、社会的苦境とは、あくまで離婚請求を認めるべきかを様々な事情を元に総合的に判断するための一要素でしかありませんので、そのほかの事情と相まって離婚を認めるかどうかを決定されると考えられます。

 

そして、これまでの裁判所が経済的苦境を中心に論じてきたこと(それゆえに、精神的苦境、社会的苦境だけを論じた公表された裁判例がないのです。)を考えますと、精神的、社会的には苦境に陥るけれど、経済的には苦境に陥ることのない苦境であれば、経済的苦境ほどには強く離婚を否定する要素にはならないと考えられます。

 

 

次回予告

・浮気した者からの離婚請求は絶対に認められないのか④

「①夫婦の別居が相当の期間におよぶ」というけれども相当の期間とはどれくらい?

 

これまで最高裁判所のあげる3つの条件(①夫婦の別居が相当の長期間に及ぶこと、②夫婦間に未成熟の子が存在しないこと、③離婚により、これまでの結婚相手が、精神的、社会的、経済的に過酷な状況におかれないこと)のうち、「②、③を欠く場合には、離婚は認められないのか」を記載してまいりましたが、次回は、そもそも「①相当の長期間」というけれどもそれはどれくらいの期間なのかということについて記載します。

 

 

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